半蔵門ミュージアム十一面観音菩薩立像修復
真如苑真澄寺十一面観音菩薩立像
2023~2024年
本像はその体部の穏やかに整えられた造形から、平安時代後期、12世紀頃の作であることがわかります。しかし、後世の修復と思われる痕跡も多く確認されました。当初部材と後補部材が複雑に組み合わさる構造であることが予想されたため、修復前に東京国立博物館においてCT撮影を行うはこびとなりました。その結果、首より上の頭部、両腕、脚部はすべて、後世に作られたものに置き換わっていることがわかりました。
蓮華座裏面には銘札が打ち付けられており、大正11年(1922)に仏師田中文弥によって鑑定を受けたことが記されています。本像の大掛かりな修復も、あるいはこの時期に施された可能性があります。
この度の修復は、半蔵門ミュージアム館長山本勉先生のご指導のもと、所蔵先である半蔵門ミュージアムと協議を重ね、平安時代後期の製作当初の造形を最優先としながらも、修理過程を示す後補部材も保存して信仰対象としての仏像の姿も損なわないようにする、「現状維持」に重きをおいた修復方針をとることとしました。
実際に解体を行うと、体部の造形に合わせるように、大小さまざまな多数の材があてがわれ、現在の十一面観音菩薩像をかたちづくっていたことがわかりました。また、そうした後世に補われた部材と当初の造形をつなぐように、厚い木屎漆がそれらの造形を覆っていました。修復を進めるにつれ、かつての修復者が、損壊した部分をどうにか復元し十一面観音菩薩像を尊像として成り立たせようと苦心した手跡がありありと見て取れました。そうした部材の一つ一つも、当初部材と同様の修復処置を施し、元のように組み立てたうえで、この先も堅牢に維持されるよう、構造の強化を行いました。脱落部や後補部は構造的に脆弱であるとみなした部分のみ、新たに補作を施しています。補作部は一見して新補であることが分かるよう、単色で仕上げました。
これまで様々な時代に様々な人の手をへて伝えられ、また様々な技術者によって幾度もよみがえった十一面観音菩薩像の姿を、この先も長く多くの皆様に、拝し、ご鑑賞いただけたら嬉しく思います。