観照院木造十二神将立像
本修復は、「お堂を改築したことに伴い、御像に堆積した積年のほこりや汚れだけでもきれいにしたい」というご相談から始まりました。
観照院木造十二神将立像は、寄せ木造りの彩色像です。台座に刻まれた銘文から、同寺木造日光月光菩薩坐像と同様に、文化八年(1811)に制作されたことが分かります。
御像に大きな破損は見られないものの、塵埃の堆積、汚れの固着、漆箔層および彩色層の剥落・遊離、小部材の脱落などが確認されました。そのため、御像のクリーニングのほか、剥落留め、脱落した部材の接着を行う方針としました。実際に埃や汚れを除去すると、想像していた以上に金箔や彩色が鮮やかに蘇りました。
また、遊離した彩色層は、いずれ脱落する可能性が大きく、周囲の彩色層のさらなる剥落を引き起こす要因となります。今回、遊離した彩色層の定着を行うことで、こうした剥落の連鎖を、最小限にとどめることができました。
さらに、忘失部材を新たに制作することはせず、脱落した部材を接着し、変形した装飾を修整する内容に留まりましたが、それだけでも御像の印象に明らかな変化がありました。
本件で行った作業内容は、「修復」という枠の中では、最小限の処置といえます。しかしながら、観照院ご住職の、「きれいになった仏様を見たら、檀家さんたちもきっとお喜びになり、自分のお寺の仏像にもっと関心を寄せてくれると思う。それが次の修理につながると思います。」というお言葉は、“修復”という事業の本質をつかれているように思います。
本件は、クリーニングや剥落留めといった処置が、いかに御像の「物理的な意味での保存」に重要かといった事柄だけでなく、修復を通して地域の皆様に御像の存在を認識いただくことが、「地域における永続的な保存」に確実に繋がることを、身をもって実感した修理となりました。